TPPが成立しなかった場合
養豚関連産業に従事している黒木です。
トランプ米大統領が誕生します。そのこと自体も驚きですし、さまざまな議論が噴出しています。私が気になっているのは、トランプ勝利を日米のマスコミの、おそらくほとんが予想できなかった点です。このような分析力で内外の問題にさまざまな論点を提供できるのか、大変不安に思います。願望と予想は異なります。クリントンになってほしいということと、彼女が勝利することとは全く別のことでしょう。なぜ予想を大きく外したのが、冷静に検証すべきと思います。
この業界にひきつけていえば、TPP批准の可能性が著しく低下したという点です。これまでTPPが避けられないという前提をベースに、いろいろな議論がありました。国産豚肉の輸出や、安い海外製品とどのように競合していくかなどなど。それらが、一旦白紙になるということです。
振り返ってみれば、TPPが発動したら、という議論は山ほどされましたが、TPPが発動されなかった場合の議論はほとんどなかったように思います。TPPが発動されなければ、国内養豚産業はこれまで通りでしょうか。関税はこのまま、国産豚肉は安泰でしょうか。私たちが反省すべきは、すべてTPPありきという前提で議論を進めてきた結果、TPPがなくなった場合の議論がほとんどなかったように思われる点です。あらゆる可能性を排除せずに議論できなければ、不測の事態にパニックになるだけです。
TPPが成立しなかった場合、養豚産業はどうなるのか、どうしていくべきか、これから議論されるでしょうし、議論していくべきです。戦いでもっとも怖いのは、準備をしていない状態で不意打ちをくらうことだと思います。どんな大男でも一瞬で倒れる可能性があります。いろいろなパターンをシュミレーションして準備しておくこと、それこそが、最大のリスクヘッジでしょう。
東日本大震災にしても、地震や津波の発生確率が極端に低いから、対策について議論しないという姿勢があったように思います。確率が0.0001%でも被害が甚大である可能性があるのなら、さまざまな議論をしておくべきでしょう。TPP議論の死角をトランプに教えられたような気がします。同じ失敗をしないよう、あらゆる可能性にアンテナを張っていきたいと感じています。
黒木
転職の心得
養豚関連産業に従事している黒木です。
転職を一度もしたことがない人は、昨今珍しいかもしれません。新入社員が3年で3割辞めるといわれ、また、リストラなど、望まないのに転職活動をせざるを得ないケースもあります。高度経済成長の時代ならともかく、今の時代で、定年までつつがなく1社に勤め上げられる人は非常に少ないでしょう。
現代社会で働くものの心得として、転職活動を常に頭の片隅に置いておくべきでしょう。正社員を解雇するのは簡単ではないといわれますが、会社が社員を解雇する権利を持つ以上、社員も常に会社を離れる用意はすべきでしょう。ネガティブな意味でなく、自身の市場価値を常に見直すことも必要です。転職活動を通して、自分に必要なものが見えてくることもあります。たとえば、英語ができるだけで、転職活動の幅が大きく広がるかもしれません。自身が持っていなくて、社会が求めているスキルがわかれば対策の打ちようがあります。
転職はチャレンジであり、大きなストレスになります。特に、転職後しばらくは非常に大変でしょう。また、転職先がブラック企業であるケースもあるかもしれません。そのようなことも含めて、転職するさいには給与は2割増しぐらいもらわないと割にあわないという人もいます。各種のリスクを耐える際に、120%の給与は慰めになります。過酷な業務であっても、給与が増えれば、耐えられることもあるでしょう。
転職を検討するさいに特に重要なこと、それは調子のいい時に転職を検討することでしょう。リストラなど追い込まれての転職活動は、つい妥協してしまいがちになります。足元を見られる可能性が増えるのです。逆に余裕があるときに転職すれば、いい条件で自分をプレゼンできそうです。株は上がっているときに売るのが原則で、下がっているときに売るものではないでしょう。
私自身振り返ってみれば、転職した時は、自身が成長したときだったように思います。これまでと違う環境で新しい業務にチャレンジすること、大変なことも多いですが、大きく成長する機会です。1社に勤め上げることも素晴らしいし、転職を通じて、自身の幅を広げることも素晴らしいことと思っています。
黒木
芸能人が記者会見を開く理由と薬品メーカーの欠品対応
養豚関連産業に従事している黒木です。
今年に入り、薬品メーカーの欠品は非常に増えているようです。代替品のある薬品はともかく、代替品のないワクチン類などは大きな影響を与えます。一刻も早い欠品解消が望まれるのはいうまでもありません。
この状況で気になったのは、薬品メーカーの対応です。生産者サイドからすればいつ復活するかが焦点ですが、それ以外にも定期的な情報提供が求められます。具体的には、進捗状況の報告です。情報のアップデートを来月の何日に行います、ということを告知するだけで、多少なりともイライラや不満に誠意をみせることができると思いますが、そのようなことを実施しているメーカーが必ずしも多くありません。たとえ「来月も欠品します」という情報であったとしても、定期的な情報提供により、問題に取り組んでいることが明瞭になるのです。情報のアップデートがないと、欠品問題がどうなったのか、忘れ去られたのではないかという不安や不満が出てきます。ですので、次は何日に情報を更新しますという告知が必須なのです。
この点で、芸能人が記者会見を開く理由が参考になります。不祥事などで芸能人が記者会見を開く理由は、状況を自ら説明するという建前だけでなく、アポなし取材を避けるためも理由の一つでしょう。もし不祥事を起こし、記者会見を開かないで逃げ回っていたら、さらにアポなし取材はヒートアップするでしょう。取材対象が逃げている印象を与えると、追う側はますます追い込みたいという気持ちになりがちです。だからこそ、何月何日に記者会見を開くと告知し、この問題に取り組むという意気込みをみせ、それまでに想定問答集を用意すればいいのです。
このようなことは企業広報の基本でしょうが、案外、逃げ回っている(ようにみえる)メーカーがあるように思います。逃げれば追われます。誠意をもって対応すれば、次につながるでしょう。
黒木
多産系と希少系
養豚関連産業に従事している黒木です。
昨今トピッグスやダンブレッドといった多産系の種豚が話題を集めています。年30頭離乳を超える農場がぞくぞくと誕生しており、生産成績が劇的に改善しているようです。生産者の関心は非常に高く、多産系の導入をすすめる農場や検討する農場が多くなってきました。
その一方で、希少系ともいうべきマンガリッツア豚を日本に導入した農場が、紹介されていました。マンガリッツアはハンガリーの国宝とも言われている豚で、外見は毛むくじゃらで羊のよう。これはハンガリーという寒い地方のため、毛むくじゃらになっているようです。ハンガリーでは放牧されているようで、その影響か、肉質は牛肉に近いといわれています。私も食しましたが、味が濃く、とてもおいしい。確かに牛肉に近い印象をもちました。
マンガリッツアの肉質は非常によい。しかしながら、弱点は生産性です。1回の出産で多産系が14頭あるいはそれ以上も分娩するのに、マンガリッツアは7~8頭程度。約半分です。しかも、肥育期間は8~10か月と、通常の豚の6ケ月という肥育日数より長い。これらを総合すると、通常の豚より3倍以上の値段がつかないと成り立たないということになります。ではマンガリッツア導入は検討に値するでしょうか。
私自身はマンガリッツアに商機ありと考えています。皆が多産系に向かう状況の中で、希少系を極めれば、独占市場を形成できるかもしれません。ただし、そのまま売ったのでは、3倍も高い豚肉を購入してもらえるか、分かりません。私がこの豚肉を売りに出すなら、豚肉ではなく、牛肉として売り出します。味がおいしく、価格は牛肉より安い牛肉、このような位置づけでマーケティングします。調理方法は牛肉同様、焼くのが基本でしょうか。牛肉に近い味のマンガリッツアをよりおいしくいただける料理方法を有名シェフやクックパドに頼んで共同開発します。
またTPPの影響が比較的小さそうな点も、この希少系の優位なところかもしれません。TPP発動により安い豚肉の流入可能性が取りざたされますが、マンガリッツアのような希少系にはあまり影響がなさそうです。今後、家族経営の小規模農家の戦うフィールドはここかもしれません。
黒木
大きな農場と小さな農場
養豚関連産業に従事している黒木です。
養豚場にはさまざまな規模の農場があります。大規模農場もあれば、中規模・小規模農場もあります。働くとしたらどの規模の農場がいいでしょうか。
一般論としては、大規模農場(組織)のほうが人間関係などトラブっても逃げ道があるので大きな会社のほうがいいという人もいます。あるいは、人間関係がよければ家族経営のところがいいという人もいます。結局のところ、気持ちよく働ける環境がいいわけですが、こればかりは働き始めてみないとわからない部分が多いでしょう。
私自身は、小規模農場を選びます。大規模組織は分業体制にならざるを得ず、どうやっても養豚業の全体像がつかみづらい。小規模農家で全体の流れをつかむことで、たとえ部分的な仕事であってもその作業を全体の中で位置づけることができると考えているからです。そしてそのメリットが何より大きいと思います。
小規模農場でトラぶった場合に逃げ道がないのではないかという意見もありますが、大規模組織でも問題が起これば、案外逃げ道はないものです。会社はそう簡単に異動させたりしないからです。そうであるなら、メリットを重視して小さな農場で働くことを選びます。
もっとも単に小規模農場に勤めるのでなく、後継者のいない農場で働けるよう画策します。小規模農場で養豚業の全体像をつかみながら、養豚場の経営を引き継げるよう話し合い・修行をするでしょう。その意味では、農場のサイズよりも、農場の経営状態のほうが着目ポイントかもしれません。年々農家戸数が減っているのであれば、それを引き継ぐチャンスも生まれているといえるでしょう。
黒木
抗生剤の未来
養豚関連産業に従事している黒木です。
先日バイエル薬品からバイトリルワンジェクトという面白い注射薬が発売されました。従来からあるバイトリルという抗生剤の高濃度バージョンです。
一見、従来品の濃度を濃くして、それにあわせて他の成分を多少調整しただけの製品のようにみえますが、この製品がちょっと面白いのはその開発背景です。この製品には二つの背景があると思われます。
- バイトリルという濃度依存性の抗生剤の特性を活かしていること。
- 薬剤耐性菌の問題に一石を投じていること
まず①ですが、バイトリルは製品名で、成分名はエンフロキサシンといいます。これはキノロン系といわれる抗生剤です。抗生剤は濃度依存と時間依存という2つにわける分け方がありますが、この区分でいうとバイトリル(キノロン)は濃度依存の製品です。濃度依存とは、濃くすればするほど効果が高いという特性です。つまり、従来品を高濃度にして、より効果的につくられた薬品ということです。まずこの点は開発背景として頷ける点です。
次に②の耐性菌についての考え方が、この製品の製作背景の非常にユニークな点です。耐性菌ができる仕組みとして指摘しているのが、中途半端な抗生剤の使い方です。耐性菌ができるのは、抗生剤を薄く使うことで、殺滅しきれなかった菌が耐性を獲得して、抗生剤が効かなくなるとの見解をパンフレットで謳っています。逆に言うと、耐性菌を生じさせないためには、抗生剤を高濃度で使うことが重要だということです。
この耐性菌についての考え方は、国内外の学者も指摘しているところです。抗生剤を使うなら中途半端に薄くダラダラ使わず、一回で高濃度で使うべきだ、こうした考え方です。使うときはドンと使う、そして使用しないときは使用せず、薄くダラダラ入れ続けない。。抗生剤の使い方に一石を投じる製品と感じています。
この製品を使う、使わないということとは全く別のこととして、この薬品が開発された背景には、立ち止まって考えさせるものがあります。抗生剤の適正使用とはどのようなものかと。
黒木
薬品メーカーは最終的に何社程度になるのか
養豚関連産業に従事している黒木です。
オリックスの微研、フジタ買収に端を発した薬品業界の再編ですが、最終的に何社程度になりそうでしょうか。ここではまったく無責任に予想をしてみたいと思います。
この業界、薬品メーカーの数は多すぎると私は感じています。養豚業界では、有力メーカーといえど、2~3年に1回程度の新製品発売頻度です。動きの激しい近年、このペースは妥当でしょうか。畜産だからこの程度という考えもあるかもしれませんが、私は遅すぎるペースと考えています。少なくとも1年に1回は新製品をだすべきでしょう。
となると、現在のメーカー数より3分の1程度に集約されるべきではと予想ないし希望しています。私の考えでは外資で3社、内資で2社の合計5社程度です。この養豚業界、それで十分でないでしょうか。
薬品メーカーの責務とは、新製品を出し続けることに尽きます。これはいい製品とか悪い製品などという基準ではありません。いいも悪いも含めて、1年に1回は新製品を出すべきです。そうでなければ、年に何度も新製品を出すジェネリックメーカーに、すべてをもっていかれることでしょう。
新製品を出し続けられないメーカーが存続することは難しくなりそうです。自身の立ち位置、存在理由を今一度確認すべきでしょう。
黒木