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ウインドレス豚舎はすべてを解決するか

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

これから豚舎を建てる場合、ウインドレス豚舎になることが多いでしょう。空調や照明などを自動で管理するため、豚舎の管理を合理化できることになるでしょう。古くからのカーテン豚舎の農場からみると非常に羨ましいシステムです。

 

しかしながら、ウインドレスにした豚舎でも、事故は起きます。事故率が以前とあまり変わらないケースなども場合によってはあるようです。結局のところ、システムで省力化できる部分もありますが、豚の管理という一点では、人間の観察力や対応力がものをいうのです。すべてが自動で管理されているので、たとえば空調なども完璧かといえば、必ずしもそうでないこともあるでしょう。そうした時にいち早く気付いて、換気を調整したりすることができる人が、管理上手な人です。

 

ある農場経営者がいっていましたが、管理が上手いスタッフはウインドレス豚舎でもカーテン豚舎でも管理が上手いとのこと。弘法筆を選ばず、のようです。ウインドレス豚舎だから大丈夫なはずと考えるのでなく、調子の悪い豚がいないか、常に観察をすることが肝要です。

 

黒木

仕事の辞め方

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

芸能人の清水富美加さんが事務所を出家引退するというニュースが出ていました。事務所の契約が残っていることや、近日公開の映画やテレビ、CMなどへの影響もあり、批判する人も多いようです。

 

法治国家である日本では、職業選択の自由があり、辞めるのは自由です。そうでなければ、奴隷国家でしょう。したがって、辞職は自由です。特に今回懸念されるのは、清水富美加さん自身が精神的に不安になり、辞めたいという強い思いがあったという点です。本人が追い詰められているといっているのであれば、その思いは尊重するべきでしょう。たとえば電通の社員が自殺した時には、世間では、自分の命を危険にさらしてまで働くことはない、さっさとやめてしまえという論調でした。あるいは、学校のいじめが原因で登校したくない子供には、登校しなくていいと、やさしい言葉をかけます。それなのに、清水さんには厳しい視線が送られます。

 

今回のケースでは、出家と引退が結びついていますが、本来これは別物です。仕事に不満がなく、急に出家引退したのであれば、迷惑をかけるなといわれるのも当然かもしれません。しかし、今回は、彼女自身が精神的な危機を感じ、引退を考えているところに、出家が重なった状態です。仮に、彼女が追い詰められて、自殺でもした場合、世論はどのようになるのでしょうか。事務所が悪いとなるのでしょうか。それよりなにより、自身の身の安全を優先させるべきだと考えます。

 

組織というのは多かれ少なかれ、迷惑をかけたりかけられたりして支えあっている有機物だと思います。引退の前に、もっと会社と率直に話し合う場がなかったか、そういう議論はあってしかるべきでしょう。しかし、すべてをクリアにしてから辞めるべきという議論はあてはまらない気がします。日常の判断能力がある状態では、理性で考えられますが、判断能力が鈍っている場合、クリアにすべきステップがとれないものです。遠慮なく逃げるべきでしょう。

 

翻って、会社や養豚場という組織から見た場合、辞めたいというスタッフに対して、もっと率直に話し合う機会はとれなかったか、当人の精神状態をもっとケアできなかったか、反省すべき点もあるかもしれません。

 

清水さんが宗教団体に出家した点を問題視する人もいますが、仮にユニオンに相談していたらどうでしょう。また違った展開になるのでしょう。労働待遇に不満があれば、まず会社と話し合い、次にユニオンに相談するなどのステップが通常です。しかし、そのステップがとれないほど衰弱していたのかもしれません。

 

引退後すぐに暴露本が出版されたことから、炎上商法でないかという人もいますが、ここでの議論とは関係ありません。本人が追い込まれたと感じる限り、またそれを表明するかぎり、保護されるべきでしょう。それを仮に利用する人がいたとしても、それは別の問題です。

 

この件がどのように展開するのか不明です。違約金の問題などが発生するのも当然かもしれません。しかし、人の命より優先されるものことが、世の中にあるとは思えません。

 

黒木

スケールメリットとリスクヘッジ

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

国内の養豚戸数は5,000戸を割り、他方、規模拡大を目指す農場もあります。大規模農場化を目指す経営者はレバレッジを大いにかけて、スケールメリットを活用することでしょう。大規模農場であれば、飼料や器材、薬品など各種取引業者にコストダウンの交渉をすることも可能でしょう。屠場も、大規模農場に対して、モミ手でやってくるかもしれません。

 

レバレッジとはてこの原理のことです。仮に豚価が高い場合、規模を拡大すればするほど、儲かる額が増えます。スケールメリットが生まれることから、利益率も改善される可能性が高いでしょう。では、規模拡大した農場によってこの業界は独占される日が来るのでしょうか。

 

私は必ずしもそう考えていません。特に、この数年のPEDの流行を見たとき、必ずしも大規模農場が有利であるとは限らないとの思いを強くしています。大規模農場では、オールアウトできない場合連続飼育になり、疾病の環を断ち切ることができません。結果、いつまでもPEDが足を引っ張ることになります。大規模農場は、プラスの方向に作用すれば強いですが、マイナスの方向に振れると弱い部分があるように思います。具体的には、PEDやPRRSのようなやっかいな疾病が侵入て、オールアウトがしにくい場合、中小規模農場よりも対策が難しいという点です。

 

スケールメリットを享受しつつ、リスクを最小限に抑える方法があれば、大規模農場は最強になります。その方法はマルチサイトの確立だと考えています。マルチサイトとは何より守りの布陣です。母豚3,000頭の一貫農場と、母豚3,000頭のマルチサイト農場(娩舎、離乳舎、肥育舎の3サイトなど)では、月の出荷頭数はざっくり6,000頭程度で変わらないでしょう。しかし、ひとたび疾病が侵入した場合、一貫農場では疾病の環を断ち切ることが難しいのに対し、マルチサイトでは、疾病の循環を断ち切りやすいのです。

 

守りに強いとは、他の農家が出荷数を減らしている時に出荷できるということであり、相場に勝てるということを意味します。バブルの時のように、儲かっているときは誰でも儲かります。しかし、皆が儲けづらい時に儲けを出すことこそ、今後の相場で勝っていく秘訣だと思います。

 

大規模農場が本気でマルチサイトを目指してきたとき、大規模農場による寡占が進むかもしれません。

 

黒木

PED対策私見

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

PEDはやっかいな疾病です。一度農場に入ると農場から排除することが極端に難しい。ほんのちょっとの量で爆発的に拡大する。逆性石鹸による消毒剤でも効果があるというものの、駆逐に苦労します。

 

PEDが日本で拡がってから約3年経ちました。すぐに収まった農場もあれば、そうでなかった農場もあります。その違いはどこにあったのでしょうか。今回は間違い覚悟で、私が感じたことを記します。

 

私自身はオールアウトできたかどうかが、キモだったと考えています。大規模農場も中小規模農場も関係なくPEDは侵入しましたが、比較的中小規模の農場の回復が早かったように感じます。その理由を一括りにするのは乱暴だと思いますが、あえて誤解を恐れずに言えば、中小規模の農場では結果としてオールアウトになったからではないでしょうか。PEDにかかれば子豚は脱水症状で死亡します。その結果、豚舎は空舎になります。ここで洗浄・消毒を徹底する農場もあれば、そうでない農場もあります。重要な点は消毒する/しない、という観点よりもオールアウトできたか/できなかったかにあるように思います。

 

オールアウトして空舎期間をとれれば、疾病の環を断ち切ることができます。この点こそが、PEDに限らず、あらゆる疾病対策の基本になるでしょう。したがって、PEDワクチンを打つ/打たない、PEDワクチン3回打ち/2回打ち、消毒を徹底する/あまりしない、馴致をする/しない、馴致とワクチンを併用する/しない、強制流産をする/しない、、こういった切り口よりも、オールアウトできる/できないという1点がポイントのように思います。大規模農場でPED対策に苦労したのは、オールアウトがしづらいという点ではなかったでしょうか。

 

オールアウトをして、空舎期間を取るということは、その間、豚を出荷できず、収入がなくなります。そのため、経営判断としてオールアウトすることはしづらいでしょう。しかし、今一度思い出すべきは、PEDを直接の原因として倒産した農場はそれほどあったでしょうか。空舎期間により一時的にキャッシュフローが滞りますが、若齢で死んだ豚は、養豚コストの7割ともいわれるエサを食べていないため、経営的なダメージはそこまであるとは言えないように思います。PEDでつぶれた農家はない、そういう人もいます。

 

PEDの侵入を防ぐために、ピッグフローを確立する、消毒を徹底する、人の侵入経路を管理する、従業員同士の交差がないようにする、、などいろいろあるでしょう。これらの予防防疫も重要ですが、より大切なのは、ウィルスが侵入したときにどのような対策をとればいいか、よくシュミレーションしておくことだと思います。侵入リスクをゼロにすることはできないでしょう。しかし、疾病対策は可能です。

 

PEDの侵入経路についてはいろいろな議論があり、今でもあります。それも大事ですが、より重要なのはどのようにPEDを駆逐したかという経験の蓄積・分析と共有であるように思います。

 

黒木

増頭と減頭

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

農場のスペースは限られています。母豚100頭の農場であれば、それに合わせた離乳舎、肥育舎のスペースがあります。母豚を増頭すれば、子豚の生産量が増え売り上げも上がりますが、肥育スペースが密飼になり、肺炎など疾病が増えることになります。満員電車に風邪を引いた人が乗り込んだときのことを考えれば、これは容易に想像できます。

 

疾病対策を考えた場合、減頭が推奨されます。母豚100頭規模の農場であれば、90頭程度に減らしてみる。これは売り上げが減るため、勇気のいる経営判断ですが、後のステージで肺炎などによる事故を考えれば、こちらのほうが正解かもしれません。飼育スペースを十分に確保すれば、密飼が解消され、疾病が減り、治療も減ります。

 

減頭は見た目上、売り上げが減るのでなかなか踏み出せないものですが、その後の事故率や治療の手間、コストを考えた場合、検討するに値する経営判断です。ゆったり飼うから、トラブルも少ない、事故による売り上げ減が減り、経済的にも余裕ができる。。

 

多くの経営者がとりづらい減頭という政策は、逆張りの経営方針ですが、ありだと思います。

 

黒木

 

言葉にすること

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

養豚場の仕事は肉体労働が中心です。何をどのようにすればいいのか、実際に体を動かし、説明することも多いでしょう。言葉で説明するのが難しい作業もあります。しかし、相手が理解できるように仕事内容を言語化することこそ、仕事の本質のように思います。

 

たとえば、右足を前に出す、次に左足を前に出す、また右足を前に出す、、という一連の作業は、要するに歩くということです。歩くという目的を言語にすることによって初めて、作業・行動の意味がわかります。意味が理解できればあとは簡単です。次からは「歩く」という指示を出せば済むわけです。そのように行動の意味を理解できた人間が、作業ではなく、仕事をする人でしょう。

 

呑み込みのいい人間やできるといわれる人は、このような言語化ができる人のように思います。養豚場の作業は労働ではありますが、同時に仕事ではないでしょうか。自分の作業を言葉にすること、それは仕事そのものだと思います。

 

黒木

原因を特定することの難しさ

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

原因と結果を特定する因果論は非常に難しい論理です。科学の場合はまだしも、特に実際の社会生活は多様な要因が絡み合い、実験室の実験のようにはいきません。Aという現象とBという現象には因果関係があるかはわからないが、相関関係はある、程度の物言いになることがあります。

 

たとえば、1990年代に一時流行した「割れ窓理論」という説がありました。この理論は現在ほとんど使われることがなくなったのですが、その理由はこの理論が正しくなかったからといわれています。建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される、という考え方のもとに、軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで、凶悪犯罪を含めた犯罪を抑止できるとする環境犯罪学上の理論です。

 

この理論が有名になったのは、1990年代にニューヨークのジュリアーニ市長が犯罪抑止策として、この理論をベースにして成功したからです。彼の政策はゼロ・トレランス(不寛容)」と名付けられおり、具体的には、警察に予算を重点配分し、警察職員を5,000人増員して街頭パトロールを強化するなど、軽微な犯罪の取り締まりに重点を置いたものです。その結果、N.Y.の治安が改善し、観光客が戻ったと(以上Wikipediaより)

 

しかし、この理論は現在では妥当でないといわれています。たとえば、同時期のアメリカの他の都市でも同様に治安が改善したことなどの反論があります。ではなぜ治安が改善したのか。理由の一つは、この間の出生率が減少したこと。人間の数が少なければ、犯罪の発生率も減少します。ほかには、景気が回復したことも挙げられています。景気が回復し、雇用が確保されれば、人は普通犯罪に走りません。このように、一つの社会現象には多様な要因が複雑に絡み合い、これが原因というふうに特定することは難しいのです。

 

仕事をする中で、原因の特定が簡単なケースもあります。たとえば、温度管理に失敗して、豚が死んだなどは明白な事例です。しかし、あるスタッフのパフォーマンスが別のスタッフより優れている理由は明白ではありません。季節的な偶然かもしれません。重要なことは、因果論にこだわりすぎず、どうすればベストパフォーマンスを出せるか、議論し、実践、検証するPDCAサイクルを回し続けることだと思います。

 

黒木