価格と価値

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

昨今、価格より価値、などという話が聞かれます。物を売るさいに、価格競争でなく、価値を追求するというものです。しかしながら、この比較はよくわかりません。価値とは定性評価のこと、価格は定量評価です。定性評価と定量評価は、そのままでは比較できません。これは重さと速さを比較するような異次元の比較で、意味をなしません。

 

たとえばある製品が1個100円で購入できるとして、営業マンが面白い情報を提供してくれたから、1個120円でも買おうという話のようです。この場合、「面白い情報」が20円より価値があると判断された場合にのみ、1個120円で買う判断ができます。「面白い情報」の経済効果を試算することなく、同一製品により高い価格を出すことはありえません。

 

とりわけ昨今は、企業養豚がより規模を拡大しており、小規模の家族経営農家はますます縮小していく一方です。そんな中、A社の情報に価値があるから、B社より20円高いが、A社から買おうなどという判断が、企業内で承認されることはまずありえません。公共事業の入札をみてもわかるように、同一案件であれば、1円でも安い業者に落札させざるをえないのです。そうでなければ、社内を説得できません。

 

この点を誤解しているメーカー・卸がまだこの業界にはいるようです。人情や接待、情報提供のような定性評価で製品を買ってもらうという、昭和な営業戦略を持っているメーカーが、まだいるとの話を聞くことがあります。企業が定性的に購入判断をするということは、近年、ますます難しくなっているでしょう。このようなことをすれば、社内規定に引っかかり、購買担当者自身の首が飛びそうです。

 

価格競争でなく、価値競争とは耳触りのいい言葉です。しかし、物を定量評価でなく、定性評価で判断してもらうというのは、論理の飛躍です。そのようなメーカー内部では、たとえば社員の評価も「あいつはいうことを聞くから好評価」などとという評価体系なのでしょうか。まずありえない話です。企業は常に定量評価をベースにしています。

 

顧客に対して、メーカーがやるべきことは、よりよい製品をより安く提供する、という基本にしかありません。価格競争を拒否するメーカー・卸の先行きは不透明です。価格競争には、供給サイドにメリットはないでしょうが、顧客サイドにとっては価値があります。1円でも安く供給できるように戦略を練るべきであって、価格競争をブラックボックスにいれるべきではないでしょう。価格競争は悪ではないのです。

 

黒木