高級豚肉と普通の豚肉

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

養豚農家にとって、自農場の豚肉をブランド化するか、一般に流通する豚肉にするか、最初の判断があります。高付加価値を目指して、いろいろお金をかけてブランド化しても、コストに見合う価格をつけてもらえるか、わかりません。では、ブランド名のない普通の豚肉を生産したほうがいいでしょうか。

 

私自身は、普通の豚肉の生産を選びます。そもそも豚肉は日用品であり、牛肉のような特別感のある肉ではありません。火を入れて、加工して、使用するのが豚肉です。しゃぶしゃぶのような食べ方は店で食べるのでないかぎり、自宅ではしません。生姜焼きや炒め物などなど、普段使いできるのが豚肉です。

 

その意味では、牛肉より鶏肉に近い存在です。鶏のから揚げのような定番料理は、豚肉の場合、とんかつや生姜焼きなどでしょうか。日常的に食されるのが、私にとっての豚肉です。豚肉は中華料理によく使用されることからわかるように、加工や味付けして食すのに適しています。

 

高級な豚肉を消費したいという人もいるでしょうが、それほど数が多いとは思えません。価格に転嫁できるのであれば、ブランド化もいいですが、ブランド化したほうがより儲かるかといえば、わかりません。普通に消費される普通の豚肉を生産すること、それも一つのゴールです。

 

最近は、貧困の問題が話題になっています。高級な豚肉もいいですが、貧困家庭に良質な豚肉を適正価格で届けるのも正解でしょう。

 

黒木

薬の通販

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

個人的な話ですが、最近いろいろなものをamazonなどの通信販売で購入しています。生鮮食料品などはスーパーで買いますが、かなりの物を通販で購入しています。とりわけ服などは、しつこい接客が面倒なので、zozoが便利です。特別会員になれば、返品送料も無料になるので、大いに活用しています。

 

この業界、さまざまなものを購入する機会があります。飼料や、種豚、器材や薬などなど。このうち、エサや器材などは単純に重いので、近場の業者からできるだけ購入することになるでしょう。関東の養豚業者がわざわざ九州の業者に発注をすることはなさそうです(九州にしかその製品がなければ別ですが)。

 

しかし、薬の世界では、通信販売がメインの流通チャネルになってくるかもしれません。昔のように治療が主体で、抗生剤がメインであった時代であれば、近場の業者から購入せざるをえなかったでしょう。なぜなら、抗生剤とは添加剤であり、紙袋に入った重い添加剤は、単純に輸送コストがかかるからです。しかしながら近年、薬品は予防の時代です。病気になってから、治療薬を使うのでなく、ワクチンのような予防薬にシフトしています。そして重要な点ですが、紙袋に入った1袋20㎏の重い添加剤でなく、1本100CCの軽いワクチンになっているのです。

 

ということは輸送コストを差し引いても、通信販売で別の地域から購入したほうが安くなる可能性があります。コスト意識を徹底するなら当然、通信販売のコストを把握しておくべきでしょう。

 

いずれにしても獣医師の指示書が必要になります。それにしても、これだけ通販が活況な時代にあって、薬だけ例外のままいくでしょうか。エサの支払いにはサイトの問題があるでしょうが、薬代程度はキャッシュで捻出してほしいものです。また、総コストの5%程度といわれている薬代をその場で払えないのであれば、なかなか経営は厳しそうです。

 

薬品業界にも通販の時代が近づいているかもしれません。

 

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価格と価値

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

昨今、価格より価値、などという話が聞かれます。物を売るさいに、価格競争でなく、価値を追求するというものです。しかしながら、この比較はよくわかりません。価値とは定性評価のこと、価格は定量評価です。定性評価と定量評価は、そのままでは比較できません。これは重さと速さを比較するような異次元の比較で、意味をなしません。

 

たとえばある製品が1個100円で購入できるとして、営業マンが面白い情報を提供してくれたから、1個120円でも買おうという話のようです。この場合、「面白い情報」が20円より価値があると判断された場合にのみ、1個120円で買う判断ができます。「面白い情報」の経済効果を試算することなく、同一製品により高い価格を出すことはありえません。

 

とりわけ昨今は、企業養豚がより規模を拡大しており、小規模の家族経営農家はますます縮小していく一方です。そんな中、A社の情報に価値があるから、B社より20円高いが、A社から買おうなどという判断が、企業内で承認されることはまずありえません。公共事業の入札をみてもわかるように、同一案件であれば、1円でも安い業者に落札させざるをえないのです。そうでなければ、社内を説得できません。

 

この点を誤解しているメーカー・卸がまだこの業界にはいるようです。人情や接待、情報提供のような定性評価で製品を買ってもらうという、昭和な営業戦略を持っているメーカーが、まだいるとの話を聞くことがあります。企業が定性的に購入判断をするということは、近年、ますます難しくなっているでしょう。このようなことをすれば、社内規定に引っかかり、購買担当者自身の首が飛びそうです。

 

価格競争でなく、価値競争とは耳触りのいい言葉です。しかし、物を定量評価でなく、定性評価で判断してもらうというのは、論理の飛躍です。そのようなメーカー内部では、たとえば社員の評価も「あいつはいうことを聞くから好評価」などとという評価体系なのでしょうか。まずありえない話です。企業は常に定量評価をベースにしています。

 

顧客に対して、メーカーがやるべきことは、よりよい製品をより安く提供する、という基本にしかありません。価格競争を拒否するメーカー・卸の先行きは不透明です。価格競争には、供給サイドにメリットはないでしょうが、顧客サイドにとっては価値があります。1円でも安く供給できるように戦略を練るべきであって、価格競争をブラックボックスにいれるべきではないでしょう。価格競争は悪ではないのです。

 

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養豚場売買マッチングサイト

 養豚関連産業に従事している黒木です。

 

養豚経営において、顕著な傾向は規模拡大する養豚場が増えてきたことでしょう。戸数の減少がある一方、規模拡大を目指す農家も増えています。既存の養豚場に新しい豚舎を建てる経営者もいますが、他の養豚場を買収するケースもあります。ではどのように買収先の情報を手に入れるのでしょうか。

 

これは口コミが主になるでしょう。エサ屋を中心に、関連業者からの口コミが多いと思われます。また金融機関からの紹介もあるかもしれません。いずれにせよ、その養豚場に債権を持っている業者からの情報提供、これがメインである可能性が高いでしょう。

 

では売買価格は妥当なものでしょうか。1円でも安く買いたい買収側と、1円でも高く売りたい売却側、、価格の合意形成は単純ではないでしょう。私は売買情報はこれまでの口コミだけでなく、インターネット上に売買マッチングサイトがでてくれば面白いと思っています。

 

すでに一般の住宅・土地の売買マッチングサイトとして、「楽街」や「健美家」などのマッチングサイトがあります。マイナーな領域ではありますが、買収したい養豚場にとっては有効な手段になりえます。また、売却側にとっても、全国の養豚場と取引ができるという利点があります。たいていの場合、地元の養豚場が情報をクローズドな状況で仕入れ、買収交渉を行う形なので、全国に展開できる体力をもった大規模養豚場にとっては、買収のチャンスが増えるかもしれません。

 

養豚場の新規参入は周知のとおり、難しい状況です。糞尿処理や臭気対策など、既存の養豚場の拡大や他養豚場の買収などをしない限り、新規に参入することはほとんど不可能でしょう。養豚場のマッチングサイトには意外な需要があるかもしれません。

 

ちなみに、不動産の売買は、3%の手数料を取るのが通常です。仮に1億円の養豚場があったとして、売りと買いで合計6%の手数料が手に入れば、1回の取引で600万円になります。これだけで食べていけそうです。

 

黒木

メーカーによる薬品の直売

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

養豚業界では、基本的に医薬品メーカーの直売・直送は行われておらず、メーカー→卸→生産者という流通ルートになります。卸が介在するということは、手数料が発生しています。当然、卸が介在しないほうが、薬品は安くなります。

 

では、メーカーはなぜ卸を介在させるのか。代表的な理由は次のようなものです。

 

  1. 配送業務
  2. 在庫管理
  3. 債権回収代行

 

まず1の配送業務ですが、これは宅配業者に頼めば済む話です。消毒の徹底など、配送業務に気を使っているという医薬品専門業者ならではのメリットもありますが、特に医薬品卸でなければならない必然性は薄いでしょう。

 

次に2の在庫管理です。必要なものが現地に在庫されており、注文にすぐに応えられるという利点があります。しかしながら、この業界ではすぐにあれこれの薬品がほしいなどということはそれほど多くないでしょう。計画的に発注する農場が多いので、多めに薬品を在庫している卸のほうが少ないようです。、また、最近では、必要最低限しか在庫をもたない卸も多いですね。在庫ロスを防ぐにはいいのですが、一方で、メーカーによる欠品のさい、卸に在庫がないということは、すぐに欠品になってしまうことになり、生産者に不便をかけることになります。

 

メーカーが卸に業務委託する最大の理由は3の債権回収でしょう。メーカーには債権回収機能がありません。規模の小さな農家の債権を回収するだけの体力がないのです。したがって、この点が最大の理由になります。しかしながら、この問題はクレジット決済機能を導入すれば済む問題です。このことは以前から周知の事実でした。商品購入と同時に決済を行う、他の業界では当たり前のことを実施すればいいだけです。ただ、この業界では後払い方式が採用されているため、商品送付が先で、代金回収が後という慣習になっており、クレジット決済が導入されてこなかっただけなのです。

今後この業界でも、クレジット決済によるメーカー直売が導入される可能性が高いでしょう。その時、生産者は薬品の値引きというメリットを享受できる可能性があります。その分、資金繰りには細心の注意を払う必要があるのは当然ですが、それでも薬剤コストの低下というメリットは魅力的でしょう。

業界が大きく変わるかもしれません。

 

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嫁さがし

 

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

この業界には、他の業界同様、さまざまな課題があります。TPPによる安い豚肉の流入、人口減少による消費減、PEDのような伝染病・疾病、臭気対策、、なかでも後継者の嫁さがしは、深刻な課題といえます。当事者にとっては外的要因より、最大の課題でしょう。

 

そもそもの話として、結婚はするもしないも自由ですが、私は経営者は結婚したほうがいいのではと思っています。その理由は、経営者には経営判断をする局面が頻繁にでてきます。規模の拡大であれば、億単位の借入金が必要ですし、さまざまな交渉事があります。億単位の借金というのは、なかなか度胸がいることです。失敗したら、、融資は返済できるのか、、こういう決断を一人でするのはしんどいことです。このようなときに、パートナーが支えてくれれば、心強いでしょう。もちろん、金融機関やビジネスパートナーが協力してくれるでしょうが、本当の意味で味方になってくれる人は多くはないものです。

 

早くに結婚する後継者も多い業界ですが、適齢期になっても結婚していない後継者もいるでしょう。また、後継者だけでなく、従業員の嫁さがしも課題になっている農場もあるでしょう。農場の福利厚生として、結婚相談所の登録費用を負担する、というのもこれからの人材探しの重要なポイントかもしれません。給料を上げるよりもモチベーションが上がりそうです。また、仲人には逆らえないというのも古今東西の真理かもしれません。農場でのモチベーションアップと、ロイヤリティの確立という意味では、ものすごい効果がありそうです。

 

昔のようにお見合いなどがシステムとして機能していた時代でなくなり、結婚が個人の自由意思に任された結果、なかなか結婚にたどり着かない人も多いようです。個人の自由意思というのは、脆弱なものかもしれません。嫁さがしを経営課題として考える視点も必要でしょう。

 

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豚肉の輸出は可能か

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

TPP環太平洋戦略的経済連携協定)を踏まえて、豚肉の輸入だけでなく、輸出という話題がでてきました。ざっくりいえば、TPPとは関税の撤廃による同盟国間の貿易活性化のこと。この業界に引き付けていえば、もちろんメインは安い豚肉が入ってくる危機感という反応でしょう。

 

いかに日本の養豚を守るか、でなく、日本の養豚をどのように攻めていくか、これが豚肉の輸出戦略です。では、この作戦は成功するでしょうか。

 

和牛はブランドとして、知名度があります。これは日本固有の牛に由来するブランディングの成功という側面が大きいと思います。翻って、“和豚”はどうでしょうか。豚は牛と異なり、輸入物の種豚をベースにした産業です。かつ、豚のエサであるトウモロコシなどは、輸入物です。日本の要素がほとんどないのです。肉豚の元である親豚が外国産であること、また、そのエサがほとんど輸入物であること、これらを考えると和牛と同じ戦略をとることが可能であるとは思えません。

 

では生産者はどうでしょうか。“日本人が育てた豚”というブランディングができればいいですが、この業界、国際化が進んでおり、アジア各国の作業員が養豚を担っていたりします。日本の要素が必ずしもない状況です。

 

私は日本産の豚肉の輸出は難しいと思っています。日本特有の豚の品種でもなく、日本特有のエサでもない。育てているのは日本人だけでなく、アジア圏からの労働者。。アメリカに比べ、2倍程度の生産費用がかかる日本。。

 

豚肉に関しては、輸出は難しいかもしれません。むしろ、国内消費の拡大を目指すほうが活路がありそうです。Cookpadと豚肉のレシピを共同開発して、豚肉需要を喚起する作戦もありでしょう。鶏肉や牛肉との競争だけでなく、魚料理との戦いにも勝てるようなレシピの開発が、今後の養豚産業の戦略かもしれません。本当の脅威はTPPでなく、人口減少による消費減にあるような気がします。

 

黒木