多産系と希少系

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

昨今トピッグスやダンブレッドといった多産系の種豚が話題を集めています。年30頭離乳を超える農場がぞくぞくと誕生しており、生産成績が劇的に改善しているようです。生産者の関心は非常に高く、多産系の導入をすすめる農場や検討する農場が多くなってきました。

 

その一方で、希少系ともいうべきマンガリッツア豚を日本に導入した農場が、紹介されていました。マンガリッツアはハンガリーの国宝とも言われている豚で、外見は毛むくじゃらで羊のよう。これはハンガリーという寒い地方のため、毛むくじゃらになっているようです。ハンガリーでは放牧されているようで、その影響か、肉質は牛肉に近いといわれています。私も食しましたが、味が濃く、とてもおいしい。確かに牛肉に近い印象をもちました。

 

マンガリッツアの肉質は非常によい。しかしながら、弱点は生産性です。1回の出産で多産系が14頭あるいはそれ以上も分娩するのに、マンガリッツアは7~8頭程度。約半分です。しかも、肥育期間は8~10か月と、通常の豚の6ケ月という肥育日数より長い。これらを総合すると、通常の豚より3倍以上の値段がつかないと成り立たないということになります。ではマンガリッツア導入は検討に値するでしょうか。

 

私自身はマンガリッツアに商機ありと考えています。皆が多産系に向かう状況の中で、希少系を極めれば、独占市場を形成できるかもしれません。ただし、そのまま売ったのでは、3倍も高い豚肉を購入してもらえるか、分かりません。私がこの豚肉を売りに出すなら、豚肉ではなく、牛肉として売り出します。味がおいしく、価格は牛肉より安い牛肉、このような位置づけでマーケティングします。調理方法は牛肉同様、焼くのが基本でしょうか。牛肉に近い味のマンガリッツアをよりおいしくいただける料理方法を有名シェフやクックパドに頼んで共同開発します。

 

またTPPの影響が比較的小さそうな点も、この希少系の優位なところかもしれません。TPP発動により安い豚肉の流入可能性が取りざたされますが、マンガリッツアのような希少系にはあまり影響がなさそうです。今後、家族経営の小規模農家の戦うフィールドはここかもしれません。

 

黒木

大きな農場と小さな農場

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

養豚場にはさまざまな規模の農場があります。大規模農場もあれば、中規模・小規模農場もあります。働くとしたらどの規模の農場がいいでしょうか。

 

一般論としては、大規模農場(組織)のほうが人間関係などトラブっても逃げ道があるので大きな会社のほうがいいという人もいます。あるいは、人間関係がよければ家族経営のところがいいという人もいます。結局のところ、気持ちよく働ける環境がいいわけですが、こればかりは働き始めてみないとわからない部分が多いでしょう。

 

私自身は、小規模農場を選びます。大規模組織は分業体制にならざるを得ず、どうやっても養豚業の全体像がつかみづらい。小規模農家で全体の流れをつかむことで、たとえ部分的な仕事であってもその作業を全体の中で位置づけることができると考えているからです。そしてそのメリットが何より大きいと思います。

 

小規模農場でトラぶった場合に逃げ道がないのではないかという意見もありますが、大規模組織でも問題が起これば、案外逃げ道はないものです。会社はそう簡単に異動させたりしないからです。そうであるなら、メリットを重視して小さな農場で働くことを選びます。

 

もっとも単に小規模農場に勤めるのでなく、後継者のいない農場で働けるよう画策します。小規模農場で養豚業の全体像をつかみながら、養豚場の経営を引き継げるよう話し合い・修行をするでしょう。その意味では、農場のサイズよりも、農場の経営状態のほうが着目ポイントかもしれません。年々農家戸数が減っているのであれば、それを引き継ぐチャンスも生まれているといえるでしょう。

 

黒木

抗生剤の未来

 

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

先日バイエル薬品からバイトリルワンジェクトという面白い注射薬が発売されました。従来からあるバイトリルという抗生剤の高濃度バージョンです。

 

一見、従来品の濃度を濃くして、それにあわせて他の成分を多少調整しただけの製品のようにみえますが、この製品がちょっと面白いのはその開発背景です。この製品には二つの背景があると思われます。

 

  1. バイトリルという濃度依存性の抗生剤の特性を活かしていること。
  2. 薬剤耐性菌の問題に一石を投じていること

 

まず①ですが、バイトリルは製品名で、成分名はエンフロキサシンといいます。これはキノロン系といわれる抗生剤です。抗生剤は濃度依存と時間依存という2つにわける分け方がありますが、この区分でいうとバイトリル(キノロン)は濃度依存の製品です。濃度依存とは、濃くすればするほど効果が高いという特性です。つまり、従来品を高濃度にして、より効果的につくられた薬品ということです。まずこの点は開発背景として頷ける点です。

 

次に②の耐性菌についての考え方が、この製品の製作背景の非常にユニークな点です。耐性菌ができる仕組みとして指摘しているのが、中途半端な抗生剤の使い方です。耐性菌ができるのは、抗生剤を薄く使うことで、殺滅しきれなかった菌が耐性を獲得して、抗生剤が効かなくなるとの見解をパンフレットで謳っています。逆に言うと、耐性菌を生じさせないためには、抗生剤を高濃度で使うことが重要だということです。

 

この耐性菌についての考え方は、国内外の学者も指摘しているところです。抗生剤を使うなら中途半端に薄くダラダラ使わず、一回で高濃度で使うべきだ、こうした考え方です。使うときはドンと使う、そして使用しないときは使用せず、薄くダラダラ入れ続けない。。抗生剤の使い方に一石を投じる製品と感じています。

 

この製品を使う、使わないということとは全く別のこととして、この薬品が開発された背景には、立ち止まって考えさせるものがあります。抗生剤の適正使用とはどのようなものかと。

 

黒木

薬品メーカーは最終的に何社程度になるのか

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

オリックスの微研、フジタ買収に端を発した薬品業界の再編ですが、最終的に何社程度になりそうでしょうか。ここではまったく無責任に予想をしてみたいと思います。

 

この業界、薬品メーカーの数は多すぎると私は感じています。養豚業界では、有力メーカーといえど、2~3年に1回程度の新製品発売頻度です。動きの激しい近年、このペースは妥当でしょうか。畜産だからこの程度という考えもあるかもしれませんが、私は遅すぎるペースと考えています。少なくとも1年に1回は新製品をだすべきでしょう。

 

となると、現在のメーカー数より3分の1程度に集約されるべきではと予想ないし希望しています。私の考えでは外資で3社、内資で2社の合計5社程度です。この養豚業界、それで十分でないでしょうか。

 

薬品メーカーの責務とは、新製品を出し続けることに尽きます。これはいい製品とか悪い製品などという基準ではありません。いいも悪いも含めて、1年に1回は新製品を出すべきです。そうでなければ、年に何度も新製品を出すジェネリックメーカーに、すべてをもっていかれることでしょう。

 

新製品を出し続けられないメーカーが存続することは難しくなりそうです。自身の立ち位置、存在理由を今一度確認すべきでしょう。

 

黒木

自分を変えたいとき

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

今日は養豚から離れて書きます。

 

日常生活は毎日の繰り返しです。素晴らしいことかもしれませんが、飽きます。退屈を打破するとき、どのような策があるでしょうか。新しい趣味を始める、行ったことのない店に入ってみる、旅行に行ってみる、などなど。ただ、変化はあっても、やがて同じような日常生活になっていきます。通常はこのような繰り返しで日々の生活が過ぎていくでしょう。

 

現状を変えたいときにもっとも効果があるのは、転職かもしれません。しかし、これは皆に勧められる方法ではありません。誰もが実行できる可能性のある方法の中で、最も効果があるのは、引っ越しではないでしょうか。別の街への引っ越しに限らず、同じ街での引っ越しでさえ、劇的に行動パターンが変わり、見る風景も変わり、考え方も変わってきます。引っ越し作業は大変ですし、お金もかかりますが、現状を変えたいとき、自分を変えたいとき、非常に効果があると思います。

 

引っ越しすると自分の行動パターンやルートが変わります。また、訪れる店も変わります。行動が変われば意識が変わります。この点が重要だと思うのですが、意識を変えることはものすごく難しい作業です。よく他人を変えるより自分を変えろなどということを無責任にいう人がいますが、自分を変えることこそ、もっとも難しい行為だと感じています。このようなことをいう人はたいてい自分を変えたくない人で、他人を変えさせようとしているだけに過ぎなかったりします。自分を変える試みが著しく難しいのは、行動が変わらないのに意識を変えることが非常に難しいからでしょう。人間はそこまで意志の強い生き物でないように思います。

 

引っ越しするさい、不要なものを捨てます。そして、引っ越し先で新しい家具やインテリアなどをそろえることになります。こうした一連の作業を通じて、本当に必要なものとそうでないものの断捨離を行うことができます。日常生活でこうしたことができればいいのでしょうが、なんだかんだ言い訳をして、実行することが先延ばしされたりします。

 

意識改革は非常に難しい。しかし、行動改革は実行できます。行動が変われば、意識が変わる。引っ越しは劇的に行動パターンを変化させる、イベントだと思います。郊外に住んでいたのを街中に引っ越してみる、それによりほとんど飲みに出ることがなかった人が、飲みに出て新たな交友関係ができるかもしれません。もし現状を変えたい、自分を変えたいと考えるなら、引っ越しは意外に有効な手段だと思います。

 

黒木

養豚場の経営者になってみる

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

農家戸数が減り続けています。総戸数は5,000をきっており、今後ますます減るでしょう。小規模農家は減り、他方、拡大意欲のある農場による大規模化が増える。国内の総母豚数は90万頭ほどで変わらず、、といった流れは変わらないようです。

 

経営難のため養豚場を手放すという方もいるでしょうが、主に経営者の高齢化や後継者問題によるものが多そうです。やる気はあっても体が追い付かない、後継者不在のため廃業する、そういったケースをよく聞きます。家族経営や小規模農家の場合、売りに出そうにもなかなか買い手がつかないケースもあるでしょう。ボロボロの豚舎である、設備は古いものの買い直すタイミングでない、など。

 

意欲のある養豚場従業員が養豚場を経営したいと思った場合、このような養豚場を買い取って、経営に乗り出すのはありかもしれません。というのも、この業界、新規参入はかなり難しい。糞尿処理や近所対策など、いろいろな課題を考えると、まず新規参入が難しい業界です。その一方で、養豚場の経営はビジネスモデルとしてはある程度確立されている業界でもあります。豚を大きくして、出荷してお金を得る、豚価が下がっても各種補助金制度もある。。真面目にやっていれば大きくくいっぱぐれる可能性は比較的低いでしょう。しかし、参入障壁が高い。。

 

意欲があり能力がある従業員といえども、出世しても場長どまり。従業員がオーナーになる可能性はまずないでしょう。サラリーマンはリスクが低いといわれますが、会社都合で解雇されるケースもあるなど、必ずしもリスクが低いとも思えません。ある程度確立されたビジネスモデルを持つ業界の経営者として、思い切って参入するのもありだと思います。サラリーマンを続けているのと、経営者になるのと、どちらのリスクが高いでしょうか。養豚場の経営には当然いろいろなリスクがありますが、補助金などさまざまなリスクヘッジの手段があります。また資金繰りなど各種金融機関からのサポートもあります。それに比べ、サラリーマンのリスクヘッジの手段は、実はそんなに多くないように思います。

 

養豚場を手放す側からしても、自分の農場を引き継いでくれる人が出てくれば、嬉しいのではないでしょうか。経営者になってベンツに乗る、それもいいでしょう。従業員目線からは見れなかった別の風景が開けるような気がします。

 

黒木

生産者の視点、獣医師の視点

養豚関連産業に従事している黒木です。

 

この業界では、生産者と獣医師は協業して関係を築いていきます。いい豚をより多く出荷するために生産者は注力し、獣医師は疾病のコントロールの観点からサポートします。経営者兼獣医師という生産者もいますが、多くは分業しています。あるいは、獣医師の資格を持つ経営者もいますが、あえて獣医師を雇う社長もいます。最新の情報の入手や業界情報に通じるためには、専門の獣医を雇ったほうが効率がいいのでしょう。

 

しかし、生産者と獣医師では豚をみる視点が異なっていると、聞いたことがあります。獣医の盲点は病気の豚を中心に見ているために、健康な豚、いい豚というものを見慣れていないというものです。

 

この指摘は的を得ているところがありそうです。コンサル獣医師であれば、農場の衛生状態や豚の衛生状態に気を使うことから、健康な豚もみているでしょう。しかしながら、たとえば家保の獣医は病気の豚をみることがメインになる可能性が高いでしょう。病気の豚ばかり見続けることの難点は、健康な豚、いい豚がどのようなものか、そういう思考や経験を持ちづらいというものです。

この偏りを調整するために、生産者にお願いして、健康な豚を積極的に観察する機会を設ける獣医もいるでしょう。大事なことだと思います。

 

骨董の世界では、審美眼を養うために、いいものを見せ続けるそうです。本物を見続けることで、偽物がわかるようになるのであり、偽物を見続けても本物はわからないようです。病気をみるとともに、健康をみること、複眼思考が獣医師には求められていくように思います。

 

黒木